2025年9月20日[土]−12月7日[日]

みどころ

「猫」の絵から、絵画史をのぞく

 浮世絵、日本画、現代アート……日本には魅力的な猫の絵がたくさんあります。中でも、独特の存在感を放っているのが、近代洋画の猫です。ツンとすましたおしゃれでモダンな猫、あえて朴訥に表した猫など、洋画家たちは多彩な猫の絵をえがいてきました。
 しかし実は、洋画が生まれた当初、猫の絵はほとんどえがかれませんでした。洋画家たちが手本とした西洋の絵画では、絵の主役は人物で、そもそも動物の絵が少ないのです。
 そんな猫というモチーフを、洋画の魅力的なテーマへと押し上げたのが藤田嗣治でした。1920年代のパリで脚光を浴びた「乳白色の裸婦」の側に、一匹の猫をえがいたのが始まりです。さらに、まるで自分のサインのように自画像にえがき込んだりと、多くの個性が競い合うパリ画壇で、猫は藤田自身を印象付けるために欠かせないモチーフとなっていきました。
 本展覧会では、藤田がえがいた「裸婦の横の猫」を出発点に、日本の洋画家たちの猫の歴史を絵を26人の作家、83点の作品でたどります。藤田から直接の影響を受けた画家もいれば、そうでない画家もいます。しかし、どちらにも共通するのは、西洋とは違う日本の猫の絵の歴史も背負っていたということです。だからこそ、日本と西洋の伝統の間で悩んだり、猫というモチーフから新たな道を見出そうとしたのです。

みどころ1フジタの猫、傑作が大集合

乳白色の裸婦、少女、子ども、戦争画、そして宗教画……。長い画業の中で、実にさまざまなモチーフに取り組んだ藤田ですが、今も昔も、変わらぬ人気を誇るのが「猫」です。裸婦の横に猫をえがき込んだ初期の作品から、藤田の猫人気を物語る『猫の本』、戦時下の混沌を象徴する猫の乱闘、そして最後まで手元に残した一枚まで、藤田の「猫」の傑作で、その歴史をたどります。

藤田嗣治《五人の裸婦》
1923年 東京国立近代美術館

藤田嗣治《アタラとヘシオン》(『猫の本』より)
1930年 軽井沢安東美術館

藤田嗣治《猫》
1940年 東京国立近代美術館

藤田嗣治《猫の教室》
1949年 軽井沢安東美術館

藤田嗣治《猫を抱く少女》
1950年代 N. H. コレクション

藤田嗣治《猫》
1949年 岐阜県美術館

みどころ2西洋と日本、「猫」の絵をめぐる歴史を探る

フジタが登場する以前、絵画において猫はどのように描かれていたのでしょうか? 本展では、「猫」の絵を通じて、「絵画の主役は人物」という芸術観から動物絵画の少なかった西洋と、人と動物は同じ心を持つという仏教の教えを背景に、動物絵画の宝庫であった日本を比較し、その奥にある動物観の違いを探ります。

エドゥアール・マネ《オランピア(『30のオリジナル版画』より)
1867年 N. H. コレクション

菱田春草《黒猫》
1910年 播磨屋本店

みどころ3「猫」から迫る、洋画家たちの魅力

フジタ以降、日本でも多くの洋画家たちが猫の絵を描くようになりました。洋画家・木村荘八が流行歌に着想を得てえがいたハイカラな猫の絵や、前衛画家・中原實の意外なほど愛くるしい子猫まで……。猫の絵の歴史を辿るとともに、猫の絵から見える洋画家たちの魅力に迫ります。

中原實《猫の子》
1929年 東京都現代美術館

木村荘八《猫恋人(ねこらばさん)》
藤沢市(招き猫亭コレクション)

みどころ4猪熊の猫、傑作が大集合

フジタ以降の猫の絵に大きな展開をもたらしたのが、猪熊弦一郎です。猪熊は1950年代に集中して、猫の絵に取り組んでいます。本展では、最大級の油絵から、ユニークな猫がびっしりと描かれたスケッチブックの一葉まで、猪熊による猫の傑作15点が一堂に会します。

猪熊弦一郎《猫によせる歌》
1952年 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
©The MIMOCA Foundation

猪熊弦一郎《題名不明》
1986年 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
©The MIMOCA Foundation

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